チャンスも作戦も多種多様だが、最後にモノを言うのは「愛」と「自信」/舩越園子の現地レポート
2017年7月19日(水)午前10:56
全英オープンウィークのロイヤル・バークデールは、今のところ、全英らしからぬ晴天に恵まれている。
先月に開催された全米オープンはフェスキューが生い茂るエリンヒルズが舞台だったため、「全米オープンのほうが、むしろ全英オープンらしかった」などという声が聞こえてくるほど、青空のロイヤル・バークデールは全英らしからぬ晴れ晴れとした雰囲気だ。
そして、誰が優勝するのかまるでわからないという混沌とした状況は、先月の全米オープンでも今週の全英オープンでも共通している。
そんな中、全米オープンを制覇し、メジャー初優勝を挙げたばかりのブルックス・ケプカは、今日の火曜日に公式会見に臨み、こんな言葉を口にした。
「ローリー・マキロイも言っていたけど、最近はグッドプレーヤーがどんどん増え、もはや、かつてのタイガー・ウッズ時代のように誰か一人が君臨する時代ではなくなったのだと思う。リッキー(ファウラー)、ジャスティン(トーマス)、ヒデキ(松山英樹)。彼らは、まだメジャーで勝っていないけど、きっと勝つであろうとみんなが信じている。それが、いつ到来するのか。もう、あとは時間の問題だ」
ケプカがそうやって若い選手たちの名前を挙げた一方で、ベテラン選手にも大いにチャンスがあるのだと気勢を上げたのは、ロイヤル・バークデールで前回開催された2008年大会の優勝者、パドレイグ・ハリントンだ。
「リンクスでは必ずしもロングヒッターが有利とは限らない。時速160マイルの効率的なスイングでボールを捉えるほうが、時速180マイルのパワフルだけど非効率的なスイングをする人より結果的に飛ぶということだって起こりうる。だからこそ、オールドガイのほうが好成績を出すことがある。それに、齢を重ねた選手には豊富な経験がある。だから経験に基づく判断ができる」
ハリントンが言った「オールドガイ」「齢を重ねた選手」には、もちろん45歳のハリントン自身も含まれている。
ハリントンは今年5月にスポンサー行事に参加し、アマチュアにワンポイント・レッスンを施していた際にアマチュアが振ったクラブが左ひじに当たる事故に遭った。「これで僕のキャリアは終わった」と、そのときは引退まで考えたそうだが、幸いにもその後の経過は良好で、調子も上がり、今大会では「ロイヤル・バークデール2連覇」を目指して、やる気満々の様子だ。
そして、もう一人、「オールドガイ、齢を重ねた選手」の中で大きな期待と注目を集めているのは、2013年の全英オープン覇者、47歳のフィル・ミケルソンだ。
ミケルソンは元々、全英オープンでは成績が振るわず、「全英が不得意な選手」と言われ続けてきた。だが、彼自身はいつも「全英のコースは素晴らしい。僕は全英のコースも全英オープンという大会も大好きなんだ」と、振るわぬ成績とは無関係に全英への愛を口にしてきた。
そんなミケルソンの想いがリンクスの女神に届いたのだろうか。彼がミュアフィールドを制したとき、世界のメディアは一様に「まさか」と驚いたものだった。
あの2013年の全英制覇以後、ミケルソンは勝利から遠ざかっている。今年は長女の高校の卒業式と日程が重なり、全米オープンを欠場してゴルフ界を驚かせた。その直後には、25年間の相棒キャディ、ジム・“ボーンズ"・マッケイとのコンビを解消し、またまた世間を驚かせた。今大会では弟ティムがバッグを担いでいるが、そこまでは、すでに米ゴルフ界では周知のストーリーだった。
今日の火曜日にミケルソンが周囲を驚かせたのは、彼の今週のクラブセッティング。ドライバーを入れず、一番大きな番手は3番ウッド。その3番ウッドは2013年にミュアフィールドで優勝した際に使っていたものを今週のバッグに入れているという。3番アイアンも通常とは異なるものを使う予定で、それは低弾道を打ちやすい形状なのだそうだ。
ミケルソンは2008年の全米オープンでもドライバーをバッグに入れない作戦を敢行し、「奇をてらいすぎ」と米メディアから酷評されたことがあった。あのときは18位に終わり、ドライバーを入れない作戦が成功したと感じた人は、ミケルソンを含めて皆無だったと言っていい。
それなのに今大会でミケルソンが再びノー・ドライバー作戦に打って出ようとしていることは、ハリントンが言った「齢を重ねた選手の豊富な経験」「経験に基づく判断」に当たるのかどうか。その答えは、これからわかる。
マキロイやケプカが言った通り、今のゴルフ界が一強時代ではなくなり、多数の選手にメジャー優勝のチャンスがある状態だと私も感じている。そして、若手にもベテランにも、ロングヒッターにもショートヒッターにも、誰にも勝利への道がほぼ等しく開けているのだとすれば、勝利への道の歩み方にも多様性はあっていい。ノー・ドライバー作戦、然り。
ただし、最後にモノを言うのは、作戦云々でも年齢云々でも経験云々でもなく、どこまでコースや大会を愛し、どこまで自分を信じ切れるかどうかであろう。
マキロイ、ケプカ、ハリントン、ミケルソン。誰がどのメジャーを制したときも、彼らは、そのコースを愛し、自分自身を信じ、笑顔さえ浮かべながら優勝を挙げた。
愛するからこそ、愛される――ロイヤル・バークデールの全英オープンは、そういう大会になりそうな予感がしている。
文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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(写真:Getty Images)
全英オープン
<テレビ放送予定>
1日目:7月20日(木)午後2:30~深夜4:00
2日目:7月21日(金)午後2:30~深夜4:00
3日目:7月22日(土)午後5:00~深夜4:00 ※最大延長午前 6:00
4日目:7月23日(日)午後4:00~深夜3:00 ※最大延長午前 7:00
<出演>
解説:佐藤信人(プロゴルファー・JGTO理事)、内藤雄士(ツアープロコーチ)
実況:薬師寺広・土居壮
ゲスト解説:矢野東プロ(2日目)、久保谷健一プロ(3日目)、塚田好宣プロ(4日目)