全米オープン開幕前、優勝候補とエリンヒルズの「?」を読み解く/全米オープンatエリンヒルズ 舩越園子の現地レポート
2017年6月14日(水)午後0:52
ウィスコンシン州のエリンヒルズで開催される今年の全米オープン。出場選手たちは日々、練習ラウンドを重ねているが、今はまだ「?(クエスチョンマーク)」ばかりが飛び交っている。
優勝に一番近い選手は誰なのか。それがなかなか見えてこず、優勝予想は混沌としている。世界ナンバー1のダスティン・ジョンソンは4月のマスターズの際の階段転落事故で腰を痛めて以来、まだ完全復調を見せてはいない。世界2位のローリー・マキロイも肋骨の疲労骨折からの完全復調とはいかず、今大会は出場できたことをまずは喜んでいるというのが現状だ。
ジェイソン・デイは母親の肺がん手術に寄り添うために3月のマッチプレー選手権を途中棄権。手術は成功し、母親は快方に向かっているが、デイの調子は絶好調とは言えず、世界4位の松山英樹もフェニックスオープン優勝以後は調子が出ていない。
そんな状況ゆえに、優勝候補は誰だろうと考えたとき、浮かんでくるのは「?」ばかり。それならば、ちょっと見方を変えて、世界ランキングではなく、「エリンヒルズを知っている人」「地元の人々が期待する人」というアングルから眺めてみると、まず浮上するのはウィスコンシン出身のスティーブ・ストリッカーだ。
大会ボランティアとしてサインボードを持って歩いていた地元の高校生に「誰が勝つと思う?」「誰に勝ってほしい?」と尋ねてみたら「スティーブ・ストリッカーです。僕たちのヒーローだから」と即答した。
ストリッカーは米ツアー通算12勝の大ベテラン選手。2006年にエリンヒルズがパブリックコースとして開場し、2017年の全米オープン開催コースの候補に上がったとき、USGA(全米ゴルフ協会)から「ツアープロの目線でエリンヒルズを視察して意見を聞かせてほしい」と依頼されたのがストリッカーだった。
そのときストリッカーは「全米オープンの舞台になりえる素晴らしいコースだ」と絶賛したそうだが、それ以来、ここへ来たことは一度もなかったそうだ。今回、10数年ぶりに戻ってきて“再会"したエリンヒルズは「あのころより、いろんなことが改善されていて、本当にベストなコンディションだ」と、またまた絶賛した。
エリンヒルズはパブリックコースといえども、庶民ゴルファーが気軽に気楽にプレーできるコースというわけではなく、むしろ“雲の上のコース"なのだそうだ。ある地元のゴルフファンいわく、「誰もがプレーできるのは実は春と秋だけ。それ以外は、選ばれしゴルファーたちがプレーしたり、高校や大学のゴルフ部のトーナメントに使ったりで、イメージ的には最上級のパブリックコースという感じなんです」
開場から、まだ11年。伝統や格式があるとは言えないが、敷居は高く、難度も高いコースということになるのだが、何がそんなに難しいのか?
地元のハイスクールのゴルフ部で腕を磨き、エリンヒルズで何度も大会に出たというプロゴルファー志望の学生が大会ボランティアとして働いていた。その学生いわく「フェアウエイは広いけど、フェアウエイのどこに打ってもアンジュレーションがあって、デコボコの小さな丘(hill)がいっぱいある。それが一番難しい」。
確かに、広いフェアウエイのあちこちに小さな丘が無数に隠れている。「だから、このコースはエリンヒルズって名付けられたんです」エリンの町にある、フェアウエイに丘がいっぱいの難コース。だから、エリンヒルズ。さすが、地元の高校生は詳しいなあと、妙に感心させられた。
とはいえ、そうした“隠された丘"を見抜き、見えないほどのアンジュレーションを攻略することは、この大会に集まる一流選手たちにとっては、日頃から行なっている当たり前の技の1つではある。見た目と実際の違いというトリックにひっかかることなくプレーすることは、トッププレーヤーたちにとっては、むしろ「いつも通りのやるべきこと」と言えるのかもしれない。