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4大メジャースポーツに先駆けてのツアー再開でみせた米国PGAツアーの威信と信念
2020年6月11日(木)午後5:56
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11日、米国男子プロゴルフツアーのPGAツアーがチャールズ・シュワブチャレンジ(11日~14日/コロニアルCC/テキサス州)よりツアーを再開、MLBやNBAなど米国メジャープロスポーツの先陣を切る形で始まります。
再開に先駆けて、PGAツアーは7日「PGAツアー シーズン第2章に向けてのストーリー」と題し3月のツアー中断から今日に至るまでの経緯と準備についてのリリースを配信しています。
昨年10月、タイガー・ウッズ選手(米国)が日本初開催のZOZOチャンピオンシップで歴代最多勝記録に並ぶ通算82勝目を挙げ、今年2月には北アイルランドの英雄ローリー・マキロイ選手が世界ランキング1位に返り咲くなど、4月マスターズ以降のメジャーシーズンに向けて順調に盛り上がりをみせながら迎えた3月のザ・プレーヤーズチャンピオンシップ(TPCソーグラス/フロリダ州)1日目を終えたところで、PGAツアーは新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、ツアーを中断することを決定しました。
ザ・プレーヤーズは「第5のメジャー」とも称されるPGAツアー主催の旗艦大会で、その規模や出場選手のレベルの高さはツアートップクラス。賞金総額1500万ドル(約16億円)優勝賞金270万ドル(約2億8000万円)という賞金額はもちろん、コースに100台以上のカメラを導入して全組全選手のプレーを撮影するなど、まさにPGAツアーが威信をかけた大会です。
2月上旬、米国では約3億3千万人の人口に対して数名の感染者だったのが、ザ・プレーヤーズが開幕する3月には、死亡者約20名・感染者数1200名以上と明らかにパンデミックの兆候を示し始めていました。それでもPGAツアーは、メディカルチームや政府機関とも連携しながら、ザ・プレーヤーズの開幕にこぎつけます。
しかし、3月11日にNBAプレーヤーのルディ・ゴベール(ユタ・ジャズ)の新型コロナウイルス感染とNBA中断が報じられると、状況は一変しました。大会初日は過去最多となるギャラリー数を動員し、日本の松山英樹選手がコースレコードタイとなる「63」をマークして単独首位に立つなど盛り上がりをみせたその裏で、PGAツアーコミッショナーのジェイ・モナハン氏は、2日目以降を無観客で行うことを発表します。
「ホワイトハウスとフロリダ州知事の事務所が予防的措置を支持してくれている」というコメントに続き「しかし、状況は変わる可能性がある」と含みも持たせたその8時間後、現地時間12日夜にPGAツアーはザ・プレーヤーズを含む4試合の中止を発表しました。
開催から無観客試合、そしてツアー中断という判断が一両日中になされるという急展開ではありましたが、選手たちのコメントは概ね「残念ではあるがツアーの決定を尊重する」というものでした。当時、モナハン氏はコース近隣のアミューズメントパークの休業が決定打となったと述べていますが、アメリカだけでなく世界中が「#StayHome」に向かうなかで、苦渋の決断でした。
その後PGAツアーは、中止となった4大会以降のスケジュールを再構築すべく、マスターズや全米オープンなどメジャー大会の主催団体であるマスターズ委員会、全米ゴルフ協会(USGA)、全米プロゴルフ協会(PGA of America)、R&Aと連携し、ツアー再開に向けての準備に取り掛かります。
4月6日には共同声明を出し、今季のメジャー大会スケジュールを発表。その10日後には、6月2週目チャールズ・シュワブチャレンジからのツアー再開と年内の大会日程、そして再開後4試合を無観客試合で行うことを発表しました。
コロナ禍による非常に不確実な状況のなか、PGAツアーは再開に向けて選手や大会を開催する都市との継続的な話し合いを重ねたといいます。「安全な環境を関係者に提供できないと判断した場合は大会を開催しない」「大会を開催する地域の検査キットや医療資源を奪うような検査プランは実行しない」という原則のもと、選手、キャディ、スタッフ、メディアの安全を第一とする対策を準備してきました。
選手、キャデイ、関係者への検査義務化はもちろん、ピンやバンカーレーキなどコース内外の備品の除菌・消毒、会場内でのアクセス制限、バーチャルメディアセンターの開設、専用の移動チャーター機や滞在ホテルの手配、会場へのPCR検査車両導入など、ガイドラインにおける徹底ぶりと感染症対策の規模感は、ザ・プレーヤーズでみせていたものとはまた違った形の「威信」をみせました。
当初は6月再開に懐疑的な声も聞かれていたなか、5月には選手たちもチャリティイベントでツアー再開への流れを後押しします。ローリー・マキロイやダスティン・ジョンソンらによる「テーラーメイドドライビングリリーフ」や、タイガー・ウッズとフィル・ミケルソンというゴルフ界のスーパースターがNFLのレジェンドであるペイトン・マニング、トム・ブレイディとペアを組んだ「ザ・マッチ」でみられたのは、キャディをつけず自らバッグを担いでソーシャルディスタンスを維持しながらラウンドするという「New Normal(新しい日常)」に則したプレーでした。
それは、世界中からプロスポーツが消えたなかで一時のライブスポーツエンターテイメントであるとともに、「ゴルフ」というスポーツの魅力と可能性を改めて示しながら、医療従事者支援の多大な寄付金とテレビや配信での視聴数を集めることに成功しました。
もちろんすべての懸念が消えているわけではありません。特に外国人選手たちにとっては、そもそもの感染の不安に加えて、再度米国で感染拡大が起きた場合に帰国に大きな支障がでるリスクも考慮すると、出場の判断は難しいものになります。イングランドのトミー・フリートウッド選手やオーストラリアのアダム・スコット選手は当面出場を見合わせるとし、日本の松山英樹選手は渡米はしつつも再開初戦の出場は見送り、小平智選手も渡米するタイミングを図っている状況です。
それでも、PGAツアーは強い信念のもと、チャールズ・シュワブチャレンジからのツアー再開を「威信をかけて」準備してきました。大会には世界ランキング上位5名の選手がすべて出場し、予選ラウンドではそのトップ3であるマキロイ選手、ジョン・ラーム選手(スペイン)、ブルックス・ケプカ選手(米国)が同組でプレーするなど、高い注目を集めています。
PGAツアーのチャレンジは、他のメジャースポーツや日本のプロゴルフ界にも大きな影響を与えることでしょう。まずはこのチャールズ・シュワブチャレンジが無事に72ホールを完遂し、今後のスケジュールが順調に消化されていくことを願うばかりです。
(6/7PGAツアー提供「PGA Tour シーズン第2章に向けてのストーリー」より)
(Photo:PGA Tour Commissioner Jay Monahan by Cliff Hawkins-Getty)
再開に先駆けて、PGAツアーは7日「PGAツアー シーズン第2章に向けてのストーリー」と題し3月のツアー中断から今日に至るまでの経緯と準備についてのリリースを配信しています。
昨年10月、タイガー・ウッズ選手(米国)が日本初開催のZOZOチャンピオンシップで歴代最多勝記録に並ぶ通算82勝目を挙げ、今年2月には北アイルランドの英雄ローリー・マキロイ選手が世界ランキング1位に返り咲くなど、4月マスターズ以降のメジャーシーズンに向けて順調に盛り上がりをみせながら迎えた3月のザ・プレーヤーズチャンピオンシップ(TPCソーグラス/フロリダ州)1日目を終えたところで、PGAツアーは新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、ツアーを中断することを決定しました。
ザ・プレーヤーズは「第5のメジャー」とも称されるPGAツアー主催の旗艦大会で、その規模や出場選手のレベルの高さはツアートップクラス。賞金総額1500万ドル(約16億円)優勝賞金270万ドル(約2億8000万円)という賞金額はもちろん、コースに100台以上のカメラを導入して全組全選手のプレーを撮影するなど、まさにPGAツアーが威信をかけた大会です。
2月上旬、米国では約3億3千万人の人口に対して数名の感染者だったのが、ザ・プレーヤーズが開幕する3月には、死亡者約20名・感染者数1200名以上と明らかにパンデミックの兆候を示し始めていました。それでもPGAツアーは、メディカルチームや政府機関とも連携しながら、ザ・プレーヤーズの開幕にこぎつけます。
しかし、3月11日にNBAプレーヤーのルディ・ゴベール(ユタ・ジャズ)の新型コロナウイルス感染とNBA中断が報じられると、状況は一変しました。大会初日は過去最多となるギャラリー数を動員し、日本の松山英樹選手がコースレコードタイとなる「63」をマークして単独首位に立つなど盛り上がりをみせたその裏で、PGAツアーコミッショナーのジェイ・モナハン氏は、2日目以降を無観客で行うことを発表します。
「ホワイトハウスとフロリダ州知事の事務所が予防的措置を支持してくれている」というコメントに続き「しかし、状況は変わる可能性がある」と含みも持たせたその8時間後、現地時間12日夜にPGAツアーはザ・プレーヤーズを含む4試合の中止を発表しました。
開催から無観客試合、そしてツアー中断という判断が一両日中になされるという急展開ではありましたが、選手たちのコメントは概ね「残念ではあるがツアーの決定を尊重する」というものでした。当時、モナハン氏はコース近隣のアミューズメントパークの休業が決定打となったと述べていますが、アメリカだけでなく世界中が「#StayHome」に向かうなかで、苦渋の決断でした。
その後PGAツアーは、中止となった4大会以降のスケジュールを再構築すべく、マスターズや全米オープンなどメジャー大会の主催団体であるマスターズ委員会、全米ゴルフ協会(USGA)、全米プロゴルフ協会(PGA of America)、R&Aと連携し、ツアー再開に向けての準備に取り掛かります。
4月6日には共同声明を出し、今季のメジャー大会スケジュールを発表。その10日後には、6月2週目チャールズ・シュワブチャレンジからのツアー再開と年内の大会日程、そして再開後4試合を無観客試合で行うことを発表しました。
コロナ禍による非常に不確実な状況のなか、PGAツアーは再開に向けて選手や大会を開催する都市との継続的な話し合いを重ねたといいます。「安全な環境を関係者に提供できないと判断した場合は大会を開催しない」「大会を開催する地域の検査キットや医療資源を奪うような検査プランは実行しない」という原則のもと、選手、キャディ、スタッフ、メディアの安全を第一とする対策を準備してきました。
選手、キャデイ、関係者への検査義務化はもちろん、ピンやバンカーレーキなどコース内外の備品の除菌・消毒、会場内でのアクセス制限、バーチャルメディアセンターの開設、専用の移動チャーター機や滞在ホテルの手配、会場へのPCR検査車両導入など、ガイドラインにおける徹底ぶりと感染症対策の規模感は、ザ・プレーヤーズでみせていたものとはまた違った形の「威信」をみせました。
当初は6月再開に懐疑的な声も聞かれていたなか、5月には選手たちもチャリティイベントでツアー再開への流れを後押しします。ローリー・マキロイやダスティン・ジョンソンらによる「テーラーメイドドライビングリリーフ」や、タイガー・ウッズとフィル・ミケルソンというゴルフ界のスーパースターがNFLのレジェンドであるペイトン・マニング、トム・ブレイディとペアを組んだ「ザ・マッチ」でみられたのは、キャディをつけず自らバッグを担いでソーシャルディスタンスを維持しながらラウンドするという「New Normal(新しい日常)」に則したプレーでした。
それは、世界中からプロスポーツが消えたなかで一時のライブスポーツエンターテイメントであるとともに、「ゴルフ」というスポーツの魅力と可能性を改めて示しながら、医療従事者支援の多大な寄付金とテレビや配信での視聴数を集めることに成功しました。
もちろんすべての懸念が消えているわけではありません。特に外国人選手たちにとっては、そもそもの感染の不安に加えて、再度米国で感染拡大が起きた場合に帰国に大きな支障がでるリスクも考慮すると、出場の判断は難しいものになります。イングランドのトミー・フリートウッド選手やオーストラリアのアダム・スコット選手は当面出場を見合わせるとし、日本の松山英樹選手は渡米はしつつも再開初戦の出場は見送り、小平智選手も渡米するタイミングを図っている状況です。
それでも、PGAツアーは強い信念のもと、チャールズ・シュワブチャレンジからのツアー再開を「威信をかけて」準備してきました。大会には世界ランキング上位5名の選手がすべて出場し、予選ラウンドではそのトップ3であるマキロイ選手、ジョン・ラーム選手(スペイン)、ブルックス・ケプカ選手(米国)が同組でプレーするなど、高い注目を集めています。
PGAツアーのチャレンジは、他のメジャースポーツや日本のプロゴルフ界にも大きな影響を与えることでしょう。まずはこのチャールズ・シュワブチャレンジが無事に72ホールを完遂し、今後のスケジュールが順調に消化されていくことを願うばかりです。
(6/7PGAツアー提供「PGA Tour シーズン第2章に向けてのストーリー」より)
(Photo:PGA Tour Commissioner Jay Monahan by Cliff Hawkins-Getty)
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2019-20 チャールズ・シュワブチャレンジ ※日程変更
6月11日(木)~6月14日(日)