もう1つのドリーム・カム・トゥルー(舩越園子の現地レポート/2016全米プロゴルフ選手権)
2016年8月1日(月)午後3:13
雷雨中断に見舞われ、決勝ラウンドが大幅な不規則進行になった全米プロ。土曜日は上位10選手がティオフすらできず、日曜日に36ホールを残した展開は、その後も悪天候の予報続きの下で月曜フィニッシュや火曜フィニッシュを覚悟せざるを得ない状況だった。
だが、日曜日は断続的な雨に見舞われながらも雷雨中断には見舞われずに済んだ。スムーズに全競技が終了し、日曜日のうちに勝敗が決したことは、ほとんど奇跡だった。
いろんなことが起こり、3日目には米メディアが大会側に進行上の判断の是非を問い詰める場面まであったが、また一人、新たなメジャーチャンピオンが生まれた今年の全米プロは、とてもいい大会だった。
優勝争いは、初日から首位を守ってきたジミー・ウォーカーを筆頭に、覇者のジェイソン・デイ、2週前の全英オープンを制したばかりのヘンリック・ステンソンらがひしめき合い、混とんとしていた。だが、最後はジミー・ウォーカーとジェイソン・デイの戦いに絞られた。
ウォーカーが17番でバーディーを奪い、通算14アンダーとしたそのあと。デイが18番で第2打をピン3メートルにピタリと付け、イーグルを奪ってウォーカーに1打差まで迫った。その様子をウォーカーは18番のフェアウエイの彼方から、じっと眺めていた。
「ジェイソンがイーグルを奪ったので、僕はパーを取らなきゃいけなくなった。僕とキャディは“よし、行こうぜ"と言って、2オンを狙おうと決めた。だって、あそこからなら20回中19回はパーが取れるはずだと思ったからね」
しかし、フェアウエイウッドで放ったウォーカーの第2打は右に曲がり、深いラフに沈んだ。パーが怪しくなる大ピンチ。だが、バンカー越えの第3打を安全に寄せ、10メートルから2パットでパーを拾って初のメジャータイトルを手に入れたプレーぶりには、押したり引いたりしながら厳しい世界をどうにか生き抜いてきた彼の苦節の人生が表われていた。
才能溢れる20歳代のヤングエリートたちがスピーディーにメジャーチャンピオンになり、「夢が叶った」と口にする一方で、地味な37歳がついにメジャー優勝を果たした姿は、もう一つのドリーム・カム・トゥルーだった。
2001年のプロ転向以来、ミニツアーや下部ツアーでひたすら腕を磨き、シード落ちとシード奪回を繰り返し、2014年にようやく初優勝を挙げたら、あれよあれよと年間3勝。翌年はさらに2勝を挙げ、一気にトッププレーヤーの仲間入りを果たした。今季は成績がやや低迷気味だったが、なかなか優勝できずとも歯を食いしばってきた苦節の日々と同様、ただひたすらハードワークを重ねてきた。
今日の最終ラウンド前半は、すべてパー。そして後半、10番のグリーンサイドバンカーからのチップインバーディーと11番の10メートルを沈めたバーディーは、どんなときも努力を怠らなかったウォーカーに勝利の女神が与えてくれたご褒美だったように思う。そして17番のバーディーは現在のウォーカーの実力の証。そして18番は一生懸命に生きてきたウォーカーの人生の証だった。
72ホール目。1メートルのパーパットを沈め、“地味なジミー"がメジャーチャンピオンに輝いた瞬間、バルタスロールの18番グリーンを囲む大観衆の間からは「USA!USA!」の大合唱が巻き起こった。
惜敗したデイが声をかけ、リッキー・ファウラーもジョーダン・スピース、若きトップスターたちから祝福のハグを受けたメジャーのサンデーアフタヌーン。そんな地味な37歳のドリーム・カム・トゥルーが、なんとも素敵だった。
文・写真/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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写真提供:Getty Images