今年の全米プロが教えてくれたこと(舩越園子の現地レポート/2016全米プロゴルフ選手権)
2016年8月2日(火)午後0:52
あれは全米プロの2日目だった。日本から取材に来ていた若い記者から、こんな質問をされた。「今年はメジャーで初優勝者ばっかり出ていますけど、どうしてなんですか?今週もやっぱり初優勝者が出るんでしょうか?」
私は勝利の女神でも預言者でもないから、この質問にずばり答えることはできなかったが、ウォーカーに限らず、まだメジャーを制したことのない誰かがこのバルタスロールでメジャー初優勝を挙げたとしても「何も不思議ではないですよね」と、それだけははっきり言い切ることができた。
そう、今年はマスターズでダニー・ウイレットが勝ち、全米オープンではダスティン・ジョンソン、全英オープンではヘンリック・ステンソンがメジャー初優勝を挙げた。そして全米プロではジミー・ウォーカーがプロ転向から苦節16年目でメジャータイトルを初めて手に入れた。
ある年のメジャー4大会すべてにおいてメジャー初優勝者ばかりが揃ったことは2011年以来の珍しい偶然だったのかもしれない。だが、彼らが優勝したこと自体は決して偶然ではない。
世界ランキングの頂上付近にひしめくジェイソン・デイやジョーダン・スピース、ローリー・マキロイといった若者たちは、短期間にスピード出世を遂げたエリートプレーヤーであり、彼らがメジャー大会を制し、世界一に輝いたそのときは、かつてのタイガー・ウッズ時代に取って代わる「新時代の到来」「世代交代」と言われた。
だが、そんな20歳代の若者たちばかりが次々にメジャー優勝者となって出揃ったことも、これまた珍しい偶然だったと言えるわけで、メジャーを制する実力を有しているのが若い彼らだけに集約されたわけではない。
若いエリートたちが華々しく花開き、脚光を浴びていたその陰で、彼らより年齢を重ね、長いキャリアを歩んできた他選手たちは、さらなる鍛錬を積み、自分がメジャーを制する機会を虎視眈々と狙っていた。その中にいた4人が、ついにその好機をモノにしたのが今年のメジャー4大会だったということなのではないかと私は思う。
全米プロを制したウォーカーは、静かな口調でこう言った。
「僕にとってメジャー優勝は時間の問題だと思っていた。いつかこんな日が必ず来る。ずっと、そう信じていた」
メジャー初優勝者ばかりが揃ったワケや意義を問われると、ウォーカーはこんなふうに語った。
「この舞台に立つ誰もが、とてもいいゴルフをしていることの証だ。そんな彼らの誰かがメジャーで優勝することは時間の問題だったんだ。今、このゴルフ界の層はとても深い。その証が僕ら初優勝者の勝利だ」
勝つべき選手たちがついに勝ち、スポットライトを浴びたことは、とてもうれしい出来事だった。だが、もう1つ、全米プロのサンデーアフタヌーンが暮れゆくころに、とてもうれしく感じられた場面があった。
18番グリーン上。優勝を決めたウォーカーにデイが歩み寄り、勝利を讃えていた。そして、グリーン奥のスコアリングテントに向かう小道にはリッキー・ファウラーやジョーダン・スピースの姿があり、彼らも笑顔と握手とハグでウォーカーの勝利を讃えた。
「彼らは、わざわざあの場所まで出てきてくれて『おめでとう』と言ってくれた。若い彼らは練習ラウンドやディナーに(37歳の)この僕を誘ってくれて一緒に楽しい時間を過ごしたり、励ましてくれたりもする。今日だって先にホールアウトしていた彼らがあの場所まで出向かなければいけない理由はないんだけど、彼らはそうしてくれて、今日の僕を祝福してくれたことが、とてもうれしい」
国籍や年齢、世代を超えて、グッドプレーヤーたちが集い、ゴルフ界を作り上げていく。技術や戦いの上手さのみならず、本当の意味でゴルフ界の層が厚く深くなっていく。今年の全米プロは、そう実感できる大会だった。
文・写真/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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