ツアーバンの横から放ったスピース起死回生の一打「20分の救済処置に見た勝利への執着心」
2017年7月24日(月)午前7:32
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「何が起こるかわからないのが全英オープン」。まさにその言葉通り今年の全英オープン最終日はドラマチックな展開となった。全英オープンならではの我慢比べとなった手に汗握る優勝争いと終盤の『スピース劇場』に多くのギャラリーが興奮した。
ゴルフネットワークで解説を務めた佐藤信人プロの目に今年の全英オープンはどのように映ったのか。
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「スピース絶対有利の状況を一変させたロイヤルバークデールの風」
「This is 全英オープン」という大会でしたね。初日から4日間を通して天候が目まぐるしく変わり、毎日別のコースでプレーしているように感じるほどスコアも一変しました。
全英屈指の難コースと言われていた「ロイヤルバークデールGC」ですが、風が全く吹かず快晴の3日目にはブランデン・グレースがメジャー新記録となる「62」をマークするなどビッグスコアが続出。一方で2日目にアンダーパーを記録した選手はわずかに8名でした。
最終日は朝から天気が良くて、3日目と同じようにスコアの伸ばし合いになるかと思ったら徐々に風が強くなり、スピースら上位陣が足踏みする展開に。特に1番ホールは難しかったです。松山選手がトリプルボギーになったり、スピースもボギーでしたが、風向きが北西(左から)になったことで難易度が一気に上がり、パーなら最高という状況でした。
ゴルフの場合は途中からコンディションが悪くなると乗り切れますが、スタートからから厳しいコンディションだと乗っていけない。ボギースタートとなったスピースは立ち上がりからバタバタして、途中まで誰が勝つかわからない展開になりました。
「勝負の分かれ目は13番ホール。絶体絶命のピンチで集中力が上がった」
序盤は焦りも見えたスピースでしたが、終盤に怒涛のプレーを見せて勝ち抜きました。クーチャーもミスはなかったけど、スピースのプレーは普通では考えられないほどの圧巻のプレー。23歳とは思えない落ち着きと集中力です。それを象徴しているのが13番ホールのトラブルです。
左から吹いていた強い風に流されてティーショットを大きく右に曲げてブッシュへ。打った後に頭を抱えていたようにスピース自身も「やってしまった」と思ったでしょう。さらに不運だったのが、打てる状態ではなくてアンプレヤブルになったことです。スイングは出来たし、あんなところでアンプレヤブルになるのを見たのは初めてです。1mでも横にいけば打てるような場所だったし、運が悪かったですね。
驚いたのはアンプレヤブルの処置です。ボールの後方線上にある遠く離れた練習場へ向かって、どの場所が良いか20分もかけて熟考したのです。自分のような普通のプロゴルファーからすると、同伴競技者のことが気になってそんなに時間をかけれません。未だかつてドロップの処置に20分も時間をかけたなんて見たことがないです。
2クラブレングス以内にドロップすることも出来ましたが、スピースの心中としては「それではダブボギーになってしまうし、このホールをダブルボギーにすると優勝はない」という考えがあったのでしょう。どうすればボギーで上がれるを考えて、妥協することなくたっぷりと時間をかけたスピースの勝利への執着心を感じました。
アンプレヤブルの3打目をバンカー手前へ運び、そこからアプローチを寄せて、微妙な距離のボギーパットを見事に決めました。渾身のガッツポーズにも表れているように、勝負の分かれ目となったボギーパットでした。
本来であればミスショットをしてボギーですから、相手のクーチャーに流れは行きますが、完全に逆でした。続く14番ではもう少しでホールインワンかというピンを刺すスーパーショットでバーディを獲るし、15番では長いイーグルパットを決めて、16番も下りの難しいバーディパットを入れるし、予想もつかない怒涛のプレーでした。13番をボギーで切り抜けたことでスイッチが入ったように見えました。
苦しい流れが続いていたスピースでしたが、13番で処置を考えていた20分間で集中力が高まったように見えました。
「運と不運があるのが全英オープン、それでも最後に勝つのは強い選手」
天候の変化による運と不運があるのが全英オープンの特徴でもあります。良いショットを打ってもキックが悪くてバンカーに入ってボギーになったり、スタート時間によって天候が変わり難しくなったり。昨年のスピースも不運なコンディションにハマってしまい優勝争いに加わることが出来なかった。
「ロイヤルバークデールGC」は今年で10回目の開催で、歴代の優勝者を見てもメジャーで複数回勝っている選手が多いですが、今大会のスピースを見ていても「最後に勝つのは強い選手」と感じた全英オープンでしたね。
全英は自然との戦いですから天候に左右されても、"受け入れる"ことが必要だと改めて感じました。
ゴルフは一度悪くなった流れを変えるのは難しいですが、スピースは違った。自分の能力を全く疑っていないし、信じる力が強い。スコアを崩しても残りのホール数を冷静に分析して「まだ大丈夫」と自分を鼓舞することで終盤に流れを引き寄せた。
今大会のスピースは記憶に残る勝ち方でした。練習場から放った一打はスピースの全英初制覇として将来語り継がれることでしょう。
(写真:Getty Images)
全英オープン
<テレビ放送予定>
4日目再放送:7月24日(月)午前9:00~午後8:00
<出演>
解説:佐藤信人(プロゴルファー・JGTO理事)、内藤雄士(ツアープロコーチ)
実況:薬師寺広・土居壮
ゲスト解説:矢野東プロ(2日目)、久保谷健一プロ(3日目)、塚田好宣プロ(4日目)
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