「自信」と「浮上」の関係、「選手」と「キャディ」の関係/舩越園子の現地レポート
2017年7月22日(土)午前8:23
全英オープン2日目は激しい風雨の下での戦いを強いられ、文字通りのサバイバルゲームになった。
選手たちは次々にスコアを落とし、日本勢は池田勇太、谷原秀人、宮里優作の3人が予選落ち。この日、アンダーパーで回ったのは、わずか8人にとどまった。 その1人は、1アンダー69で回り、通算6アンダーで単独首位に立ったジョーダン・スピースだった。
1番をバーディーで発進したスピースは、3番、9番でボギーを喫し、前半で1つスコアを落としたが、チップインでパーを拾った10番が契機となり、11番、12番と連続バーディーを奪って挽回。14番では再びボギーを喫したが、15番のパー5で2打目をピン4メートルへ寄せ、これを沈めてイーグルで挽回。
そうやって落としては奪い返したスピースのプレーぶりは見事だったが、そのスピースを上回る2アンダー、68の好スコアをマークし、前日58位から6位へジャンプアップしたローリー・マキロイの浮上は、この日のハイライトだった。
マキロイは2014年の全英オープンを含め、すでにメジャー4勝を挙げている実力者だが、それだけの実績を誇るトッププレーヤーであっても、自信を失えばゴルフも崩れ、自信を取り戻せばゴルフも向上し、浮上できるということを、彼はこの2日間で示してくれた。
今季のマキロイは1月のサウス・アフリカン・オープンで肋骨に痛みを感じながらも優勝争いを演じたが、プレーオフで敗北。直後に受けた検査で肋骨の疲労骨折と診断され、それから7週間、戦線離脱を余儀なくされた。
それでも必死にカンバックを目指し、4月のマスターズでは7位に食い込んだ。だが、6月の全米オープンで予選落ちを喫すると、その後は欧州ツアー2試合でも予選落ちとなり、「自信を失いかけていた」という。
早々にロイヤル・バークデール入りし、必死の練習を重ねて全英オープン開幕に備えた。だが、自信がないままスタートした初日は前半の6ホールで5ボギーという惨憺たる出だしになった。そのときマキロイを叱咤激励したのが、相棒キャディのJP・フィッツジェラルドだった。
「何をやってるんだ?オマエは、あのローリー・マキロイなんだぞ!」
その言葉にハッとさせられたというマキロイは「まだチャンスはある」と自分自身に言い聞かせながらプレーし、後半は一転して4つのバーディーを奪い返した。
それでも1オーバー、58位と全体の中では大きく出遅れたが、「まだチャンスはある。明日の2日目、悪天候の中で60台のスコアが出せたら、週末は優勝を狙えるチャンスが出る。いや、そのチャンスを作ってみせる」と念じながら今日の2日目に臨んだ。
そして、「60台が出せたら」の予告通り、68をマークして一気に8位へ急浮上。週末は全英オープン2勝目、メジャー5勝目を目指して戦えるポジションに自身を据えた。
「ショットもパットも良かったから、とてもうれしい。初日はあんなひどい始まり方だったのに、2日目を終えてアンダーパーまで戻すことができたなんて夢みたいな気分だ。今日のようなゴルフで、あと2日間、頑張りっていきたい」
マキロイの笑顔には、喜びと自信が溢れていた。
初日の後半同様、2日目もマキロイは「ショットに入るときもパットに挑むときも、そのたびに『僕はローリー・マキロイなんだ』と自分に言い聞かせた。昨日のJPのアドバイスは本当に役に立った」と、しみじみ振り返った。「JPとコンビを組んで、もう9年になる。だからJPは僕のことを熟知してくれている」
初日の6番でJPが「オマエはあのローリー・マキロイなんだぞ」と叱咤激励していなかったら、マキロイはそのままズルズル崩れ落ち、2日目も挽回できず、予選落ちとなっていたかもしれない。
自信を失いかけ、崩れかけている選手の傍らで、キャディがどう振る舞うべきか。その判断は、とても難しい。多くの場合は腫れ物に触るような態度になりがちで、JPのように選手にあえて喝を入れることができるキャディは珍しく、貴重な存在でもある。
それができるかどうかは、選手とキャディの信頼に裏打ちされた関係が日頃から築けているかどうか次第だ。それがうまく築けていたからこそ、JPはボスをメジャーの試合中に叱咤し、それを受け入れたからこそボスは復活できたのだと思う。
それにしても、自信というものは得るまでには時間がかかって大変だというのに、それを失うのは世界のトッププレーヤーであってもあっという間のようで、そうなったときのゴルフの崩れ方、乱れ方も大きい。
だが、トッププレーヤーというものは、失った自信を取り戻し、自分のゴルフも取り戻し、そうやって再び浮上することができるからこそ、トッププレーヤーなのだろう。
初日と2日目はマキロイがそんなトッププレーヤーぶりを披露し、浮上した。同様に、3日目、そして最終日に別の誰かが大きく浮上してくる可能性は十分にある。
2日目が終了した今、私たちが眺めているリーダーボードは、まだまだ大きく様変わりする。現在10位の松山英樹がさらに浮上するのは3日目か、最終日か。
リンクスランドの戦いは、天候もコンディションもリーダーボードも千変万化だ。
文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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(写真:Getty Images)
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