全米オープン3日目が終わり、最終日最終組の2人へ期待すること/全米オープンatエリンヒルズ 舩越園子の現地レポート
2017年6月18日(日)午後0:20
全米オープンは3日目も大混戦。そして、その中から光る選手が1人出るという不思議な現象が今日も続いた。3日目にスポットライトを浴びたのはジャスティン・トーマス。9アンダー、63をマークして、24位から2位へ一気に浮上し、明日の最終日はブライアン・ハーマンと最終組で回ることになった。
全米オープンを戦う選手たちであれば、どうしようもないほどの落胆を味わった経験は、きっと誰もが持ち合わせているだろう。明日、最終組で回る2人にも、もちろん、そんな経験がいくつかあり、私の脳裏に焼き付いている場面もある。
トーマスは2015年に米ツアーにデビューし、早々に1月のヒューマナ・チャレンジで最終日を最終組で迎え、初優勝に近づいた。だが、終盤の16番で池に落としてダブルボギーを喫し、初優勝を逃した。
あのとき、ホールアウトしたトーマスは茫然と立ちすくんでいた。米メディアはみなトーマスの前を素通りして、優勝者めがけて走っていった。その場に取り残されたのは、敗北したトーマスと外国人メディアの私だけになり、それならばと思って声をかけると、トーマスはようやく我に返った様子になった。
「この敗北はとても悔しいけど、そのぶん燃え上がる。努力は必ず実ると僕は信じる」
そう言い切ったトーマスは、その言葉通り、悔しさを糧に努力を続け、その年の秋、マレーシアのCIMBクラシックで初優勝を挙げた。自分の在り方次第で、落胆を必ず喜びに変えることができる。そのことを実感したトーマスは、その後も淡々と精進を続け、昨秋にCIMBクラシック2連覇を達成。さらに今年1月にはハワイで2連勝を挙げ、「世界で最もホットな男」と呼ばれるまでになった。
そんなトーマスだからこそ、精神力は日に日に鍛えられ、今の彼はデビュー当時とは比べ物にならないほど強靭になっているのだと思う。エリンヒルズの54ホール目でイーグルを奪って9アンダーとすれば、全米オープン史を塗り替える新記録となるという状況で、見事に3番ウッドでピン1.5メートルに付け、危なげなくイーグルパットを沈めた彼のメンタリティは恐るべきものだった。
さらに驚かされたのは、トーマスが記録更新に浮き足立つことなく、ずっとクールな表情のまま、淡々としていたこと。記録更新より「全米オープンで優勝できるチャンスを自分で創り出すことができたのが、うれしい」。目指すは優勝のみ。その姿勢が揺らぐことはなさそうで、だから明日の彼に期待できる。
その一方で、この日、単独首位に躍り出て明日はトーマスと一緒に最終組で回るハーマンにも期待できる。ハーマンは米ツアー2勝を挙げており、初優勝は2014年のジョンディア・クラシックだが、記憶に新しいのは今年5月に優勝したウエルスファーゴ選手権の最終日の彼の落胆と喜びだ。
あのとき72ホール目のパー5で安全にレイアップしようと5番ウッドを握ったハーマンは、観衆の落胆の声についつい反応してしまい、3番ウッドに持ち替えて2オンを狙った。だが、グリーンをオーバーし、難しい寄せが残り、第3打はグリーンに乗せるのが精いっぱい。9メートルのバーディーパットを残し、ハーマン自身、あからさまに落胆の表情を見せたが、その数分後、彼は9メートルを見事に沈め、激しい雄叫びを挙げながらガッツポーズを取った。
「3打目で乗せた位置は決してグレートではなかったけど、あそこが狙うべき位置だったのだと思うことにした。ずっとハードワークを続けてきたのだから、僕にはできると言い聞かせ、信じようとした」
そして彼は勝利し、落胆を喜びへ自力で変えた。1か月前のその経験は、この全米オープンでも活かされている。他選手たちのスコアがどんどん伸びる中、首位タイで3日目を迎えたハーマンは、この日、自分にとって何が一番大事かを考え、「周囲の動きに惑わされず、自分の好位置をキープする」と決めていた。
そして得た通算12アンダーは全米オープンの54ホールの最小スコア記録となったが、ハーマンはそこにはほとんど反応せず、「首位を維持できたこと、とりわけ最終日を最終組で回れる状況にできたことがうれしい」。米メディアから「明日、またギャラリーから野次られたらどうする?」と冗談交じりに尋ねられると、「もう惑わされない」と笑顔で否定できる余裕も見られた。
エリンヒルズのサンデーアフタヌーンは天候もリーダーボードも目まぐるしく変わるだろう。ハーマンの通算12アンダーの下には11アンダーのトーマスら3人が2位に並び、5位のリッキー・ファウラーは10アンダー。僅差でひしめく上位陣の中で、誰が生き残るのかのサバイバルゲームになるだろう。その中で、トーマスやハーマンがこれまでに培ってきたメンタリティの強さは、大きなモノを言いいそうである。
落胆を糧にして、喜びに変えた経験。信じ続け、それが報われた経験。そんな宝を持っている2人が明日をどう乗り切るのか。勝利を掴ことができるのか。そこが、とても楽しみだ。
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全米オープンゴルフ選手権
3日目 6/18(日) 午後1:00~午後10:00(再放送)
最終日 6/18(日) 午後11:00~翌午前9:30(LIVE)
【解説】佐藤信人プロ、ツアープロコーチ内藤雄士
【現地ラウンド解説】プロキャディ杉澤伸章
※最終日は最大延長午前11:30まで