ゴルフの基本と神髄を重んじた今年の全米オープンを振り返る/全米オープンatエリンヒルズ 舩越園子の現地レポート
2017年6月19日(月)午後2:45
最終日は大混戦を抜け出したブルックス・ケプカが通算16アンダーまでスコアを伸ばし、2位の松山英樹とブライアン・ハーマンに4打差を付けてメジャー初優勝。
今年の全米オープンは「スコアが伸びすぎて全米オープンらしくない」という声が初日から上がり、その声は日に日に大きくなっていったが、誰が勝つか終盤までまったくわからなかった大混戦をドキドキしながら眺めた人は多かっただろう。
とりわけ日本のゴルフファンにとっては、その大混戦の中に松山がいたこと、松山のメジャー初優勝への希望がどんどん膨らんでいったことは、観戦の最高の刺激となり、胸が高鳴り続けていたのだと思う。
ケプカの優勝スコア、16アンダーは2011年のローリー・マキロイのそれと並ぶ大会記録。だが、優勝したケプカのみならず、選手たちのスコアが軒並み伸びたことは、USGAの意に反して伸びたのではなく、むしろUSGAの想定内だったと言っていい。
開幕前からUSGAは「雨が降れば、すごいスコアが出るだろう」「風が吹かなければ、すごいスコアが出るだろう」と言っていた。そして、その通りになった。
巷では「全米オープンは優勝スコアがイーブンパーになることを目指してセッティングされる」と長い間、言われてきた。が、今大会の開幕前、USGAは「特定の優勝スコアを目指してセッティングはしていない」と宣言。そして今大会ではエリンヒルズで「選手たちが14本のクラブをすべて満遍なく使って戦うようなセッティングを目指す」と言っていた。
そのエリンヒルズで4日間の戦いが終わった今、もう動くことはないファイナル・リーダーボードをあらためて眺めてみると、上位で終わった3人は、確かに14本のクラブを誰よりも満遍なく活かして戦っていた。
優勝したケプカは米ツアー屈指のロングヒッター。今大会の最終日の平均飛距離は322ヤードで飛距離ランクは7位。だが、彼が武器にしていたのは決してドライバー1本だけではなかった。この日のGIR(パーオン率)は94%で全選手中、堂々の1位。
距離が長いエリンヒルズで得意のドライバーをかっ飛ばし、さらにフェスキューを避け、アンジュレーションに富むグリーンをピンポイントで攻めていく。ケプカの優勝はパワーと正確性の双方が優れていたからこそだったのだと思う。
それならば、松山は何を武器にして2位まで順位を上げたのかといえば、最終日は15番のティショットを左に曲げるまではフェアウエイキープ率100%の正確性と安定性を誇っていた。最終的には15番で左へ、17番ではやや右へ外したものの、フェアウエイキープ率は86%で6位。さらに、4日間の平均パット数では2位だった。松山の場合はドライバーとパターが大きな武器になっていたと言っていいだろう。
松山と並んで2位になったブライアン・ハーマンはGIR(パーオン率)78%で、この数字は4位にランクされた。
こうして見ると、優勝者と2位タイになった3人はドライバーからパターまで満遍なく駆使して戦っていたと言えるわけで、これはまさに「14本のクラブを満遍なく使って戦えるコースに設定する」と宣言していたUSGAの思惑通りだ。
スコアが伸びた今年の全米オープンは「失敗だ」などという声はUSGAにとっては的外れな指摘でしかない。むしろ彼らは「しめしめ。うまくいった」と喜んでいる。
難しい設定で選手たちを苦しめる設定の全米オープンは、これまで多くの人々が「これぞ、全米オープン」と思ってきた姿。だが、今年のエリンヒルズは、スコアが伸びるかどうかは天候と運に任せ、スコア云々よりも「14本のクラブでプレーする」というゴルフの基本、ゴルフの神髄を重んじ、その技量を試す大会を目指して、その通りになった。
その意味では、USGAにとって今年の全米オープンは大成功。そして、大混戦を最後に抜け出し、勝利を掴むのは誰なのかとワクワクしながら見守った世界中のゴルフファン、松山英樹のメジャー初優勝はなるのかとドキドキ、ハラハラしながら眺めた日本のゴルフファンにとっても、エキサイティングで、大成功の楽しい全米オープンだったのではないか。
全米オープンも時代とともに変化していくのだと、そんなことを思いながら、サンデーナイトの今、この1週間を振り返っている。
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(写真:Getty Images)
全米オープンゴルフ選手権
最終日 6/19(月) 午後1:30~午後11:00(再放送)
【解説】佐藤信人プロ、ツアープロコーチ内藤雄士
【現地ラウンド解説】プロキャディ杉澤伸章