米国が「総力」でもぎ取った8年ぶりの勝利(舩越園子の2016ライダーカップレポート)
2016年9月18日(日)午前10:39
ライダーカップ最終日の昼下がり。18番グリーンでライアン・ムーアがバーディーパットをきっちりカップに寄せた瞬間、米国チームの8年ぶりの勝利が決まり、グリーン上になだれ込んだチームメンバーたちは祝福のハグを交わし合った。
ムーアの勝利で米国の獲得ポイントは15ポイントに達し、カップ奪還のために最低限必用だった14.5ポイントを上回った。ムーアの後方では、まだ3つのマッチが進行中だったが、それらの結果を待たずして喜びに酔いしれた米国チームの余裕勝ち。いやいや、それは完全なる作戦勝ちだったと言っていい。「9.5対6.5」で2日目を終えたとき、米国キャプテンのデービス・ラブは、こう言っていた。
「明日の個人マッチは、たとえ何が起ころうとも我々が勝つ」
それは、12組の個人マッチがたとえどんな展開になっていこうとも、万事に対応できる体制で最終日に臨むという意味だった。その通り、12名のオーダーは考え尽くされたものだった。トップスタートは絶好調のパトリック・リード。序盤から中盤は若手と中堅を織り交ぜ、終盤にはベテラン選手たちを置いて、必要となればラストスパートがかけられるように備えていた。
一方、3ポイント差の劣勢で最終日を迎えた欧州チームのキャプテン、ダレン・クラークは「我々が米国に追いつき、追い越すためには、とてもとてもいいプレーが求められる。だが、過去にも我々は逆転勝利を収めてきたんだ」と大挽回を心に誓っていた。
ローリー・マキロイを筆頭にポイントゲッターとなりえる好調な選手たちから先へ先へと送り出し、12マッチの早い段階で米国側に追い付き、追い越し、勝ち逃げする作戦。そのためクラークは6名の初出場選手のうちの4名をあえて終盤に回し、序盤戦に賭けた。
第1組のリードとマキロイが激しく競り合いながら後半へと折り返したころ、リーダーボードに目をやると、12組のマッチの中に米国リードを示す赤色のマークは1つもなく、欧州リードを示すブルーのマークばかりになっていた。「一時はリーダーボードがブルー一色になったんだ」と、米国キャプテンのラブもしみじみ振り返った。
青一色になったリーダーボード。それは一見、序盤に厚いオーダーを組み、勝ち逃げを狙った欧州側の思惑通りの展開のように見えたが、その実、これから始まる米国側の総力全開の戦いのプロローグだったのだ。
終盤にスタートした米国のブラント・スネデカー、ダスティン・ジョンソン、ブルックス・ケプカ、マット・クーチャー、ザック・ジョンソン。5人のベテラン選手たちがすべて早々にマッチをリードし、瞬く間にリーダーボードの下方を赤色に染めた。
9.5ポイントで最終日を迎えた米国側は、5ポイント先取で優勝だ。リードしていた終盤の5人がそのままマッチを制すれば、それで米国の優勝となる。もちろん、その通りになるとは限らない。だが、とにもかくにも、そうやって終盤の5人がまず土台を固め、そうなる可能性を見せたこと。仮の姿ではあったが、下方が真っ赤に染まった勢力図を誇示することができたこと。それが序盤から中盤でプレーしていた米国チームの選手たちにアグレッシブなプレーをさせる余裕をもたらし、同時にそれは欧州チームの選手たちにプレッシャーと焦りをもたらした。
リードがマキロイを18番で下すと、リッキー・ファウラーがジャスティン・ローズを下し、フィル・ミケルソンはセルジオ・ガルシアと引き分けた。3つのマッチは欧州に取られたが、その時点で「13対10」。終盤の土台固めに回っていたスネデカーが初出場のアンディ・サリバンを下して「14対10」。
そして、ラブがキャプテン推薦の「最後の1人」として指名したライアン・ムーアが2ダウンを喫しながら上がり3ホールを連取し、リー・ウエストウッドを下した瞬間、「15対10」で米国の優勝が決まった。土台を固め、その上で存分に力を発揮した米国チーム。いわば、組体操の原理であり、それは12名の選手全員を効率的にフル活用した頭脳の勝利でもあった。
その頭脳となったものは、前回大会から2年間かけて米国勝利のために備えてきた「タスクフォース」。ライダーカップウィークを迎えてからはキャプテンのラブと5人の副キャプテンがチームの頭脳を務めた。
「この2年間、大きく重いプレッシャーの下、『どうしたら勝てるのか?』と自問自答してきた。このチームは、もはや家族同然。信じがたいほど素晴らしいプレーをしてくれた。そんな我がチームを、私は米国キャプテンとして誇りに思う」声を詰まらせながら、そう語ったラブの表情に、ようやく安堵の色が漂った。
2008年以来、8年ぶりに挙げた米国チームの勝利。6ポイントの大差をつけた「17対11」の圧勝。それは、タスクフォース、キャプテンと副キャプテン、12名の選手とキャディ、その家族、そして米国を必死に応援するあまり少々度が過ぎた野次を欧州チームに飛ばした大観衆、それらすべてを合わせた総力でもぎ取った優勝だった。
「アメリカ人は個人主義でセルフィッシュ。だからチーム戦のライダーカップには不向きで弱い」??長年のそんな批判が、今日、ようやく過去の話になった。
文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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